| ■名画のストライキ |
| 空飛ぶモンティ・パイソン 第25話(U−13) |
美術評論家A First Critic ・・・・・・・・・・・・・・・・
マイケル・ペイリン
美術評論家B Second Critic・・・・・・・・・・・・・・
エリック・アイドル
農夫 Bumpkin・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
テリー・ジョーンズ
ケルビム Cherub・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
テリー・ギリアム
ソロモン Solomon ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
グレアム・チャップマン
ラジオの声 Voice ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マイケル・ペイリン
競売人 Auctioneer ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ジョン・クリーズ
場面:美術館。壁には「ルネサンス期におけるイタリアの巨匠」というプレート。美術評論家2人がやってきて、大きな絵の前に立ち止まる。
- 美術評論家A(マイケル)
- 名作ぞろいだと思わんかね。力強さ、大胆さ…、色彩に息づく生命と力!
- 美術評論家B(エリック)
- これはティッツァーノ*1の傑作に違いない。
- 美術評論家A(マイケル)
- まさしく。構成だけを見ても、明らかだね。前景部に描かれた人物群の存在感…、淀みない描線…。
- 美術評論家B(エリック)
- ああ。才能を咲き誇らせた巨匠の自信に満ち溢れている。
そこへ田舎の農夫(テリーJ)がやって来る。彼はスモックに麦わら帽子という恰好で、口に"わらしべ"をくわえている。
農夫が絵に描かれた裸体像の乳首を押すと、呼び鈴のような音が鳴る。すると絵画の中のケルビム像が消えて、階段を駆け下りるような足音が聞こえてくる。
絵画の左角部分がドアのように開き、ケルビム*2(テリーG)が顔を出す。

- ケルビム(テリーG)
- なあに?
- 農夫(テリーJ)
- よう、坊主。父ちゃんはいるかい?
- ケルビム(テリーG)
- うん。
- 農夫(テリーJ)
- 父ちゃんに話があるんだ。『乾草車』のおじさんが来たと、伝えとくれ。
- ケルビム(テリーG)
- だれ?
- 農夫(テリーJ)
- コンスタブルの『乾草車』*3だよ。
- ケルビム(テリーG)
- パパぁ、コンスタブルの『乾草車』の人が来たよぉ。
- ソロモン(グレアム)
- おう、いま行く。
絵の中のソロモン像が消えて、階段を降りる足音が聞こえる。すると、ドアからソロモン(グレアム)が顔を出す。

- ソロモン(グレアム)
- おう、よく来たな。調子はどうだい?上がっていけよ。
- 農夫(テリーJ)
- いやいや、ゆっくりしてらんないんだ。ちょっと寄っただけだから。
- ソロモン(グレアム)
- 今は、どこに住んでるんだい?
- 農夫(テリーJ)
- よく聞いてくれたな。このあいだ、ブリューゲル*4の展示室の隣に引っ越したんだけどよ、やつらのうるさいの、うるさくないのって。一晩中、スケートしてやがる。それよか、ここに来たのは他でもねえ。印象派でストライキが起こってる。

- ソロモン(グレアム)
- ストライキ?
- 農夫(テリーJ)
- ああ、『草上の昼食』*5のやつらが、おっぱじめたんだ。暖房の上から移動させられちまったせいでね。とにかく、印象派はみんなスト中だ。ゲインズバラのとこの青服の坊っちゃん*6 も、18世紀のイギリス肖像画を引き連れて出ていったしな。フランドル派も一致団結、ドイツ木版画は会合を開いてる。
- ソロモン(グレアム)
- ようし、わかった。わしも、ルネサンスのやつらに声をかけて、出ていこう。
- 農夫(テリーJ)
- オーケー。会議は4:30。場所は『アルルの跳ね橋』*7だ。
- ソロモン(グレアム)
- じゃあ、後で。成功を祈る。
- 農夫(テリーJ)
- ありがとよ。
ドアがしまり、ソロモンの声が聞こえてくる。
- ソロモン(グレアム)
- ようし。みんな、行くぞ!
アニメーション:様々な絵画から人物像が消える。
- ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』のヴィーナス
- 私も行くわ!(と貝殻の上から駆け下りる)。
- ベラスケス『ラス・メニーナス』のマルガリータ王女
- 私も!(と絵から出ていく)
- ゴヤ『マドリード、1808年5月3日』の撃たれようとしている男
- 俺も出て行くぞ!(と掲げた両腕をばたつかせて、飛び去る)。
- レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』のモナ・リザ
- 私も!(とハンチング帽をかぶって去る)。

- ヤン・ファン・エイク『アルノルフィーニの夫妻像』の夫
- 僕も行くからね!(と妻の手をポンポンと軽くたたいて去る)。
- カラヴァッジオ『キリストの埋葬』でキリストを支えている男
- 俺も行こうっと!(と言って去ると、キリストが床に落ちてしまう)。
- ヴァン・ダイク『チャールズT世の肖像』のチャールズT世
- 余も出て行くぞよ!(と言って去る)。
- ジャック=ルイ・ダヴィッド『マラーの死』のマラー
- 私も行こう!*8(と浴槽に浸かっているマラーが、排水溝に吸い込まれて去っていく)。
画面:民家の居間。男性2人が、長い箱に入って頭だけ出している女性をノコギリで淡々と切っている。窓の外では、絵画の人物像たちがプラカードを持って、デモ行進をしている(窓の部分だけ、アニメーションのはめ込み)。カメラは室内にあるラジオにズームする。
- ラジオの声(マイケル)
- ニュースです。先週から、作品の人物像が逃亡するという職場放棄が相次いでいます。ナショナル・ギャラリーでは絵画による投票が行われ、その結果、ほぼ満場一致でストライキの続行が決定されました。コンスタブル作『乾草車』の男が昨夜、述べたところによりますと、週末まで作品に戻るつもりはない、とのことです。一方、ケネス・クラーク氏*9は、ストライキを速やかに解決するためであれば、絵画との話し合いにも応じる旨の声明を発表しました。(女性の叫び声が聞こえる)。また作品から人物像が消えた煽りを受けて、サザビーズ*10では価格の大暴落が起こっています。
画面:サザビーズ。競売人(ジョン)が作品のそばに立っている。

- 競売人(ジョン)
- フェルメール*11『かつては窓辺に立っていた女 Lady Who Used
to be at a Window 』には、いくらの値を付けましょうか?10ペンス?
- お客の声
- 10ペンス!
- 競売人(ジョン)
- 10ペンスで落札されました。それでは、こちらのお買い得作品は、いくらに致しましょう?ランドシア*12『浜辺の"何でもなし" Noting at
Bay 』。
-

画面:競売人の隣にある絵が映し出される。浜辺の絵で、牡鹿がいたであろう部分だけがシルエットになっている。
- アニメーション
- 名画の人物たちが、「絵画を公平に扱え!」というプラカードを持って集まっている。その中心に立つボッティチェリ『ヴィーナス誕生』のヴィーナスが、カメラに向かって訴えかける(ヴィーナスの声は、男声)。
- ヴィーナス
- 俺たちの話も、ちっとは聞いて欲しいんだよ。
ヴィーナスたちの声が小さくなって、ラジオの声(マイケル)が再び聞こえてくる。
- アニメーション
- 競技場にギリシャ彫刻の彫像が集まっている。
- ラジオの声(マイケル)
- ブレントフォールド・サッカー競技場で開催された集会では、他の美術作品たちによる投票が行われ、絵画への支持が可決されました。賛成は、ほぼ満場一致(アポロンなどのギリシャ彫刻たちが手を挙げる)。棄権は1票。
ギリシャ彫刻の中にある、ヴィーナスのトルソ像がアップになる。
- *1 ティッツァーノ Titian (1487-1576)
- 当時、最盛期を迎えていたヴェネツィアで、最も大きな名声を手に入れた画家。神聖ローマ皇帝カール5世の宮廷画家も務めました。このスケッチに使われている絵画については不明(それとも、まったく架空の作品なのかな)。→戻る
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- *2 ケルビム Cherub
- 神様にお仕えする天使の一種。 →戻る
- *3 コンスタブルの『乾草車』 Constable 'The Hay
Wain'
- ジョン・コンスタブル John Constable (1776-1837) は19世紀のイギリス美術を代表する風景画家で、ロンドンの郊外や農村風景を多く描きました。彼の代表作『乾草車』(1821年)は、当時のイギリスでは殆ど注目されないまま、フランスの画商に買い取られましたが、1842年、パリのサロンで金賞を受賞。『乾草車』の中央に小さく描かれた人物は、確かにテリーJ扮する農夫のような恰好をしているような気も…。→戻る
- *4 ブリューゲル
- ブリューゲル一家は画家揃いで、ピーテル・ブリューゲル(父)とその子ども、ヤン・ブリューゲルとピーテル・ブリューゲル(パパと同名。ややこしいですね)がいますが、ここで言われているのは、父上のほう。ピーテル・ブリューゲル(父) Pieter Bruegel (1525? -69) は、16世紀ネーデルラント(現在のベルギー周辺)最大の画家で、喧噪たる農村風景や宗教画を多く描きました。このスケッチでは、農夫(テリーJ)が「スケートうんぬん」と言っていますが、おそらく月暦連作画の一つ『雪中の狩人
Hunter in the Snow』(1565)のことを指しているかと思われます。画像をクリックすると大きな画像がみられますヨ。→戻る
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ピーテル・ブリューゲル作『雪中の狩人』
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- *5『草上の昼食』 Dejeuner Sur L'Herbe
- エドゥワール・マネ Edouard Manet (1832-83) の作品。マネはパリの現代風な生活を描き、印象派のルノワールやドガ、モネらとも交遊のあった画家。しかし彼自身は印象派に属することを拒み、最後までアカデミーでの名声を追い求めていたそうです。そんな彼を失意のどん底に落としたのが、この『草上の昼食』(1863)。サロンに落選したあげく、裸婦が「わいせつだ!」と酷評を浴びました。「裸の絵なんて西洋美術には山ほどあるじゃん」という気もしますが、裸体はギリシャ神話のような然るべきテーマに沿って描かれるものであって、ピクニック先で無意味に脱がれるとアレコレ想像して困っちゃうじゃないか!というのが当時の人々の考えだったようです。こんな格好だから、暖房の上から移動されてスト勃発というのも、無理からぬ話。→戻る
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マネ作『草上の昼食』
- *6 ゲインズバラのとこの青服の坊っちゃん Gainsborough's
Blue Boy
- トマス・ゲインズバラ Thomas Gainsborough (1727-1788)作による『青衣の少年 Blue Boy』(1770年)のこと。彼は18世紀イギリス上流階級の肖像画や風景画を多く制作(現存作品数1000点以上!)、繊細な筆致で描かれた衣服のきらめきや風景の揺らぎが特徴。『青衣の少年』は裕福な商人の息子を描いた絵。 →戻る
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ゲインズバラ作『青衣の少年』
- *7『アルルの跳ね橋』 Bridge at Arles
- 後期印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent Van Gogh(1853-1890)による、1888年の作品で『アングロアの橋』と呼ばれることも。南仏アルルの風景が、ゴッホ・カラーの黄色で明るく描かれています。→戻る
- *8 8作品の作家名、作品名、制作年は次の通り
- ・ボッティチェリ『ヴィーナス誕生』 Botticelli 'The Birth of Venus' (1483-84)
- ・ベラスケス『ラス・メニーナス』 Velazquez 'Las Meninas' (1656)
- ・ゴヤ『マドリード、1808年5月3日』 Goya 'The Third of May'(1814)
- ・レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』 Leonardo da Vinci 'Mona Lisa'(1503-05)
- ・ヤン・ファン・エイク『アルノルフィーニの夫妻像』
- Jan Van Eyck 'The Marriage of
Giovanna Arnolfini and Giovanna Cenami'(1434)
- ・カラヴァッジオ『キリストの埋葬』 Caravaggio 'The Deposition of Christ'(1602-04)
- ・ヴァン・ダイク『チャールズT世の肖像』 Van Dyck 'CharlesT in Hunting Dress'(1635)
- ・ジャック=ルイ・ダヴィッド『マラーの死』 Jacques-Louis David ' The Death of Marat'
(1793) →戻る
- *9 ケネス・クラーク Kenneth Harry Clarke(1940-)
- オックスフォード大学卒の美術史家。ロンドンのナショナル・ギャラリーなど、美術関係の要職に着任し、評論やテレビ美術番組などで活躍。主著『風景論』『絵画の見方』など→戻る
- *10 サザビーズ Sotheby's
- クリスティーズ Christie's と共にオークション業界を二分する競売会社で、イギリス・ロンドンの
New Bond Street と Belgravia にオークション・ルームをかまえています。もともとサザビーズは書籍の競売を目的として始まった会社で(設立は1744年)、美術部門が設けられたのは第二次世界大戦後になってからですが、そこで扱われる美術品の質の高さは他社の追随を許さないほど。ちなみに、ピーター・セラーズ&リンゴ・スター主演の映画『マジック・クリスチャン The Magic Christian』(1968年)でも、ジョン・クリーズは競売人役で出演。オークションには、ちょっとした仕草で購入意思を伝えるという、庶民には理解し難いシステムがあるらしいですが、その辺のことが面白く描かれています。→戻る
- *11 フェルメール
- ヤン・フェルメール Jan Vermeer(1632-75)。家庭生活の情景を穏やかに描いた、17世紀オランダの画家。当時は殆ど顧みられることがなく、その生涯も謎に包まれています。しかし近年、その作品が緻密な構図と巧妙な寓意によって構成されていることが明らかになり、彼の評価がグンと高まりました。寡作(作品総数35点)で、しかもその殆どが美術館所有となっているため、市場では最も高額で取り引きされる作家の1人(だから贋作も一番多いんだそうです)。→戻る
- *12 ランドシア Sir Edwin Landseer (1802-73)
- 動物を英雄的に、時には家庭的に描いて、当時の大人気を博した画家。19世紀のラッセンか?→戻る
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