■飛行訓練教室   
空飛ぶモンティ・パイソン 第16話(U−3)

主教 Bishop :マイケル・ペイリン
ツツガムシ氏 Mr.Chigger, Pilot :テリー・ジョーンズ
秘書 Secretary :キャロル・クリーブランド
ウィルズ Mrs.Wills :マイケル・ペイリン
アネモネ先生 Mr.Anemone :グレアム・チャップマン
ナレーション Voice Over :ジョン・クリーズ
スポークスマン BALPA Man :エリック・アイドル

野原で、冠にローブ姿の主教(マイケル)が台本をもってウロウロ歩いている。そこへツツガムシ氏がやって来て主教に話しかける。
主教(マイケル)
(台本を持ちながらセリフを暗記しようとしている)。「おお、ベルピットよ。そなたの足はなんと腫れ上がっていることか」…腫れ上がっている。「おお、ベルピットよ…。おお、ベルピットよ。そなたの足はなんと腫れ上がっていることか」。(声を変えてセリフを言い直す)「おお、ベルピットよ」。
ツツガムシ氏(テリーJ)
すいません、すいません。おたくの飛行訓練の広告を拝見しまして、ぜひ申し込みたいんですけど。
主教(マイケル)
私は関係ないよ。出番はまだなんだから。
ツツガムシ氏(テリーJ)
そうですか。あ、あ、あの飛行訓練について何かご存じじゃありません?
主教(マイケル)
だから関係ないの。出番じゃないんだから。まだ場面5でしょ。私は場面8まで出番がないんだよ。
ツツガムシ氏(テリーJ)
はぁ。
主教(マイケル)
台本を暗記しているだけなの。「おお、ベルピットよ。そなたの足は…」
ツツガムシ氏(テリーJ)
お邪魔して申し訳ないんですけど、ちょっと道に迷いましてね。
主教(マイケル)
そんなら、あっちに行ってみれば。

主教が指さした先では、秘書が机に座ってタイプライターを打っている。彼女は眼鏡をかけていて、いかにも秘書といった感じ。

ツツガムシ氏(テリーJ)
ありがとうございます。ほんとスミマセンね。
主教(マイケル)
「おお、ベルピットよ」…これじゃダメだな。「そなたの足はなんと腫れ上がっていることか」。

主教は練習を続ける。ツツガムシ氏は秘書の方に向かう。

ツツガムシ氏(テリーJ)
すみません。おたくの飛行訓練の広告を拝見しまして、ぜひ申し込みたいんですけど。
秘書(キャロル)
ご予約ですか?
ツツガムシ氏(テリーJ)
そうです。
秘書(キャロル)
承知いたしました。それでは、ご案内いたしましょう。

秘書はファイルを片手に、いかにも秘書っぽい感じで歩いて行き、ツツガムシ氏もそれについていく。途中には川もあるが、秘書は当然のことのように川の浅瀬を歩いていく。川には2人のビジネスマンが立っており、秘書は彼らと挨拶を交わす。

秘書(キャロル)
ジョーンズさん、バーンズさん、おはようございます。

ツツガムシ氏と秘書は森の中へ入っていく。そこでは女性(ウィルズ)がお茶を給仕していて、その周りには男性が2人、立っている。

秘書(キャロル)
ウィルズさん、おはよう。
ウィルズ(マイケル)
オハヨ。

場面:海辺。秘書の後ろをツツガムシ氏がついていく。途中で2人のビジネスマンに出会う。

ビジネスマン
これを営業課に持っていってくれないか(と、書類を秘書に渡す)。

浜辺を進んでいくと、小さな洞窟の入り口が現れる。秘書とツツガムシ氏はその中に入っていく。2人の姿は見えず、声だけが聞こえてくる。

秘書の声(キャロル)
どうぞ、お気をつけて。
ツツガムシ氏の声(テリーJ)
こりゃ転びそうだな。
秘書の声(キャロル)
おはようございます。

場面:オフィス街。車が行き交う道の真ん中にテントがあり、その中から2人が姿を現す。

秘書(キャロル)
こちらへどうぞ(と、ビルの中に案内する)。

場面:オフィス。別の秘書が机に座っている。

秘書(キャロル)
中へお入りください。
ツツガムシ氏(テリーJ)
ありがとう。

ツツガムシ氏は中へ入り、秘書2に話しかける。

ツツガムシ氏(テリーJ)
飛行訓練の広告を拝見しましてね。先生にお会いしたいんですが。
秘書2
あいにくアネモネ先生は電話中ですが、中でお待ち頂いても構わないと思いますわ。どうぞ、お入り下さい。
ツツガムシ氏(テリーJ)
すみませんね。

ツツガムシ氏がアネモネ先生の部屋へ入っていく。部屋では、アネモネ先生(グレアム)が天井からワイヤーで吊されて、宙に浮いている。机の上にある電話から受話器をのばして喋っている。

アネモネ先生(グレアム)
(ツツガムシ氏にむかって)ちょっと待ってもらえるかな。その辺に適当に掛けて。(電話口にむかって)ダメだ。モードリングさんに頼んだって絶対にウンとは言わないさ。50シリングだって無理だね。ダメ、ダメ。じゃあな、ゴードン。バイバイ。(受話器を手でふさぎながら)やれやれ。(再び電話にむかって)切るよ。

アネモネ先生は上から受話器を電話機に向かって落とすが、外れる。

アネモネ先生(グレアム)
はずれっ。(ツツガムシ氏にむかって)えーっと、お宅は?
ツツガムシ氏(テリーJ)
ツツガムシです。
アネモネ先生(グレアム)
飛び方を勉強したいわけ?
ツツガムシ氏(テリーJ)
ええ。
アネモネ先生(グレアム)
じゃ、机の上に登って、腕を伸ばせ。指を閉じろ。それから膝を曲げて…。
ツツガムシ氏(テリーJ)
いや、そうじゃなくて…。
アネモネ先生(グレアム)
(怒鳴って)机に上がれっ。

ツツガムシ氏は机の上に上がる。

アネモネ先生(グレアム)
腕を伸ばして、指を閉じろ。膝を曲げて、頭を前に倒せ。ようし、腕をバタバタ動かしてみろ。ほら、振れ。速く、速く。もっと速くだ。もっと、もっと、もっと。今だ、飛べ。

ツツガムシ氏はジャンプし、床に落下する。

アネモネ先生(グレアム)
ヘタクソ、ヘタクソっ。使えねぇ野郎だな。お前、才能ないんだよっ。こっちがイヤになってくるぜ。この腰抜け。
ツツガムシ氏(テリーJ)
で、でも…。
アネモネ先生(グレアム)
わかった、わかったよ。もう一回、チャンスをやる。机の上に上がって…。
ツツガムシ氏(テリーJ)
私は飛行機の操縦法を習いに来たんですよ。
アネモネ先生(グレアム)
なんだって?
ツツガムシ氏(テリーJ)
だから、飛行機の操縦法です。
アネモネ先生(グレアム)
おう、「ヒコーキ」ってか。そりゃそうだよな、俺たちゃ立派なオトナだもんな。(お坊ちゃま風のアクセントで)「スコーンはもういいよ、ママ。グランドピアノを弾きに行かなくちゃ。」「ごめんね、ボクもヒコーキの操縦に行くよ」。机に上がれっ!
ツツガムシ氏(テリーJ)
あのね、今までにそんなことして飛べた人なんて、世界中のどこにもいないんですよ。
アネモネ先生(グレアム)
ママに飛べないって教わったのか。だったら、浮かんでる俺は何だって言うんだよ。
ツツガムシ氏(テリーJ)
ワイヤーで吊ってるじゃないですか。
アネモネ先生(グレアム)
ワイヤー?俺がワイヤーに吊されてるって言うのか?
ツツガムシ氏(テリーJ)
現に吊ってるじゃないか。
アネモネ先生(グレアム)
吊ってない。俺は飛んでるんだ。
ツツガムシ氏(テリーJ)
吊ってる。
アネモネ先生(グレアム)
飛んでるんだよっ。
ツツガムシ氏(テリーJ)
吊ってる。
アネモネ先生(グレアム)
じゃ、ワイヤーで吊ってるかどうか証明してやろうじゃないか。そのワッカ 'oop をよこせ。
ツツガムシ氏(テリーJ)
ワッカ?
アネモネ先生(グレアム)
ワッカも知らないのか。よくあるだろうが、パパがクローケ用の芝生でやるなって言うアレだよ。
ツツガムシ氏(テリーJ)
ああ、フラフープね。
アネモネ先生(グレアム)
「ああ、フラフープね」。(フラフープを受取りながら)ありがとうございますねェ、閣下。いいか、見てろよ。

アネモネ先生はフラフープに少しだけ頭を通す。

ツツガムシ氏(テリーJ)
ちゃんと通してくださいよ。
アネモネ先生(グレアム)
わかった、わかったよ。

アネモネ先生はフラフープを引っ張って切れ目を作り、その切れ目にワイヤーを通しながら、フラフープをくぐる。

アネモネ先生(グレアム)
ほら、ワイヤーなんてどこにある?
ツツガムシ氏(テリーJ)
フラフープに穴があいていた。
アネモネ先生(グレアム)
んまぁ、賢いお坊ちゃまですこと。フラフープには穴があるもんなんだよ。穴がなかったらフラフープじゃないだろうが。
ツツガムシ氏(テリーJ)
そうじゃなくて、輪に切れ目があるでしょ。ほら、そこに。
アネモネ先生(グレアム)
ケッ、切れ目。フラフゥゥゥゥプに切れ目。「失礼、ボクはグラァンド・ピィアノを弾きに行かなくちゃ」。
ツツガムシ氏(テリーJ)
ワイヤーが見え見えなんですよ、ほら吊ってるでしょうが。
アネモネ先生(グレアム)
このインチキ野郎が。ワイヤーなんてないんだよ。
ツツガムシ氏(テリーJ)
吊ってる!
アネモネ先生(グレアム)
吊ってない!
ツツガムシ氏(テリーJ)
吊ってる!
アネモネ先生(グレアム)
吊ってない!
ツツガムシ氏(テリーJ)
吊ってる!
アネモネ先生(グレアム)
吊ってない!
ツツガムシ氏(テリーJ)
吊ってる!
アネモネ先生(グレアム)
吊ってない!
ツツガムシ氏(テリーJ)
吊ってる!
アネモネ先生(グレアム)
吊ってない!
ツツガムシ氏(テリーJ)
吊ってる!
ナレーション(ジョン)
この不毛な口論はしばらく続き…。

キャプション:2年後

画面:旅客機の操縦室。パイロットとなったツツガムシ氏が副操縦士の席に座っている。その隣には機長(ジョン)も座っている。

ツツガムシ氏(テリーJ)
いやーホント、パイロットになれて良かった。

画面:机に英国航空操縦士協会 BALPA のスポークスマン(エリック)が座っている。彼は操縦士の制服を着ており、机の上には「BALPA Spokesman」と書かれたネームプレートと電話が置かれている。

スポークスマン(エリック)
英国航空操縦士協会 The British Airline Pilots Association は、正規の操縦士養成に6年の期間を要することを指摘いたします。2年では無理です。

画面:再び操縦室。機長とツツガムシ氏が顔を見合わせて、肩をすくめる。

キャプション:前のキャプションから、さらに4年後

スポークスマン(エリック)
ありがとうございます。私といたしましても、こういうつまらないことを騒ぎ立てたくはないのですが、これは協会発行の便覧を見ていただければ、すぐにも分かる初歩的な誤りです。それから、先週の「シャーロック・ホームズ」でトミー・クーパーの言ったジョークについても一言申し上げます。チャーター機を利用するには、それを斡旋するいずれかの団体に、会員として少なくとも6ヶ月は在籍している必要があります。ジョークでは、そのことが指摘されていませんでした。私が笑えなかったのは恐らく、そのせいでしょうね。(机の上の電話が鳴り、スポークスマンが電話に出る)もしもし、…そう、分かった(と、受話器を置く)。妻に言われて思い出しました。先日の「ハイシャパラル」でキャシー・カービーが、「私を星まで飛ばして」と無邪気に歌っていましたけれども、当然のことながら現在、皆様がそのような航空機を利用したりチャーターしたりすることは出来ません。それが可能になったあかつきには、英国航空操縦士協会は衛星ロケット・ヴァンガードの如く、航空界の先駆けとなりましょう*1。あるいはトライデント・ミサイルの如くね。今のは協会の仲間内で流行っているジョークなんです。それから、もう一つ。ルレックスのダンス・タイツは、どうして2晩履いただけで膝にしわが寄るんでしょうね。昔のタイツが懐かしい。信じられますか、人類が月の上を歩き、かくも複雑な分割払いの存在するこの現代に、そんなことで悩むなんて。…いささか話がそれましたね。ま、たいしたことではありません。それでは、ごきげんよう。 

*1 先駆けとなりましょう。 PALPA will be in the vanguard.
  このへんの訳については、いまいち自信がありません。「英国航空操縦士協会は衛星ロケット・ヴァンガードの如く、航空界の先駆けとなりましょう。あるいはトライデント・ミサイルの如くね。BALPA will be in the vanguard. Or the Trident. 」。" in the vangurard "で「先駆者になる」という意味ですが、米国には「ヴァンガード Vangurard 」という名前の衛星打ち上げ用三段ロケットなるものもありました(1955年)。" Trident "は米国の原子力潜水艦および同艦に積載されているミサイル。ロケット→ミサイルでひっかけてるのかと思ったんですけど…(なんとなく似てるかなぁ…なんて)。→戻る



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